第9話

**守りたい**



彼女が戻った店のドアが閉まる音に
俯いたままだった涼子が顔をあげた


ドアを見詰めたままの涼子の背中が切なくて
とにかく、この場所から動きたいと思った



「あの…涼子さん」



私の呼ぶ声にゆっくり振り返った涼子



『バカよね…』



「えっ?」



『こんな日に来るなんて… ほんとにバカみたい…』


涙で濡れた頬を手で拭いながら
バカだよね…と2度呟き涼子は哀しく笑った



きっと元彼女にではなく
自身を責めているんだと私には分かった




『ごめんね 広海さん…
こんな場面につき合わせちゃって』


涙目で笑う涼子から私は目を逸らした

「いいえ…」



どこか行きましょうかといいかけたとき
 
私達の間を通り過ぎた二人連れの男たちが振り向き立ち止まった

覚束ない足取り
酔っているのだろう
スーツ姿で会社帰りのサラリーマンだと分る

「おっ きれいなおねえさんじゃないか〜
一緒にのみにいこうよ〜♪」

涼子に近づき絡む男たち


私は咄嗟に涼子の手を引きかばった


「おあいにくさま 私達 彼氏と待ち合わせしてんの!」


「待ち合わせだと? へへっほんとかよ〜あんたはいいんだよ
こっちのきれいなおねえさんに言ってるんだよ〜」

へらへら笑いながら涼子に近づく男たち

「おねえさん〜一緒に飲もうよ〜」


あとづさりする涼子の手をしっかり掴み

声のトーンを上げた 


「しつこいよ あんたら!」 




私の声に通行人が振り向いた 
通行人の視線と強い口調で睨む私に男たちは舌を鳴らして去っていった



もし男たちがあのままひるまずに
向かってきてたらどうしてただろう

いや、自分が怪我をしても
涼子を守っていただろう


守りたい…と強く思った


まだ出会って数時間の人なのに…
 
こんな気持ちははじめてだった



『ありがとう 広海さん』


涼子の声に手を掴んだままだったことに
ハッと気づき慌てて手を離した


「いえ、(苦笑)
あはっ いやですね 酔っ払いって」


うんうんと頷く涼子の笑顔にさっきの恐怖心も消えてた



私の腕をこんどは涼子が掴んだ


『ねえ 広海さん
自棄酒にもう少し付き合ってくれる?』


「ええ 勿論 」


歩き出すふたりに
夜風が優しく背中を押した気がした







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