第7話
**事情**
『別れた理由はそれなの 当たり前よね(苦笑)』
「どうしてなんですか?
彼女を愛してたんでしょう」
涼子の瞳が曇った そして呟く
『幸せの形…がね』
「…」
『彼女に言われたの
涼子が望む幸せの形は作ってあげられないって』
「望む形って?」
ぽつりぽつりと語りはじめる涼子
父と恩師とのつながり
涼子はひとり娘 母は病に伏していて娘の結婚と孫の誕生を待ち望んでいること
恩師の息子であるエリートな彼は真面目で申し分ない
両親とも彼と涼子の結婚を強く望んでいること
涼子がその彼と結婚すれば家の事情もすべて丸く収まることになるということ
なるほど よくある話だなと頷いた
『私って 最低なの…』
「どうして?」
『結婚しても彼女に傍にいてって言ったの…』
返答に困った
…そうだね 最低だねと
言って笑い飛ばせばいいのだろうか
結婚しても彼女にはいて欲しい
なんて身勝手なんだろう
でも涼子の気持も幾分わからなくもない
自分が彼女だったら涼子にいて欲しいと思うかもしれない
いや…、愛していたらやっぱり結婚なんて許せないだろう
涼子の気持がわからない
いくら事情があるとはいえ
彼女を愛しているのに
愛していない人と結婚できるのだろうか
戸惑う私に涼子が言った
『私 子供が…欲しいの 彼女にそれだけは私には
できないって言われたわ(苦笑)』
「そうですね 私にもできません…」
言ったあと…思わず顔が赤くなった
涼子は寂しく笑った…。
『彼女と何度も話し合ったわ 別れたくないって
お互い何度も泣いたわ』
「じゃあ 愛のない結婚なんかしなければいいのに
幸せになれるとは私には思えないです…」
その言葉に涼子の瞳から涙が零れ落ちた
ちょっと、言い過ぎたかなと私は慌てた
「ご、ごめんなさい涼子さん 事情があるからなんですよね」
『子供好きな涼子は 私といるより普通に結婚する方が幸せになれるんだって…そして最後に言われたの
涼子は所詮 異性愛者(ノンケ)だものって…
悲しかったけど本当の事だから…何も言えなかった』
『私…彼女に愛される資格なんてなかったのよ』
グラスを置き涙を拭う涼子の肩が微かに震えていた
その肩に触れたい衝動を私は抑えた