開場まであと20分あった


売店でコーヒーを買い 
広いロビーの一角に並んだソファに腰掛けた

天井からぶら下がるいくつかのTVモニターに
映し出される作品予告の映像をボンヤリ眺めた

映像が途切れ、丁度飲み終えたコーヒーの
紙コップを捨てようとダストBOXを探した


ロビーをぐるり見回すと反対側のソファに
さっきの彼女が座っているのが見えた
(いつ戻ってきたんだろう?)


館外に出て行ったから誰かと待ち合わせなんだろう
と思っていたが…ソファに 今、彼女はひとりで座っている

そういえばチケットも一枚と窓口で言ってたし
やはりひとりなのかな目が勝手に彼女を観察する


彼女は携帯の画面をじっと見詰めていた


揃えた脚を綺麗に斜めに流し背筋を伸し座る姿に
やはりスタイルがいい美人だなと頬が緩む




目が合ったときの微笑みが気になった

声を掛けたいな…そう思った
ダストBOXにカップを捨てると彼女の座るソファに向かって歩き出した



…何してるの 私?
ナンパでもするつもり?

歩きながら自分に問いかけた

…まさかね 
一時の戯れの相手なら
毎夜 困らないじゃない

…ただ、話してみたいだけ
それだけ?

戯れならSTOP…
心の中でブレーキをかけた

だが…彼女に向かう足に
心のブレーキが効かなかった


目の前に立ったリオに気づき
彼女は顔を上げた

一瞬 驚いた顔をしたが 
すぐにさっきと同じ笑みを浮かべた






『たくさん貰ったんです 食べませんか?』


出かけにバックに入れたチョコを取り出し彼女に
差し出した


「……」

差し出されたチョコに
彼女の笑顔はみるみる困惑顔に変わった

当たり前だろう 
初めて逢った見ず知らずの人に
いきなりチョコを食べませんかなんて
随分、変わった人と思ってるだろう


(声のかけ方 失敗したかな…)


『失礼ですね すみません』と言おうとしたとき
開場を知らせる館内放送が流れた


彼女はソファから立ちリオの顔とチョコのパッケージを交互に見てにっこり笑った



「このチョコ私も好きなんです(微笑)」


『そうなんですか…よかった』


ありがとうと彼女はチョコを受け取った


意外なリアクションにリオは慌てた


…そうだ 肝心なこと訊かなきゃ


back/nextt

INDEX


〜beloved〜霧子

出逢い〜映画館〜(2)