TYPE HTMRuna&Emi(ルナ&エミ


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             【〜それぞれの愛〜Blue Moonの瞳〜ギターピック】


                            

『エミー 早く〜早く〜!』



ライブハウスの入口で亜紀子が手を振っている



開演の4時は既に過ぎていた



傘をたたむ私を亜紀子は急かして
会場のなかに引っ張っていく



(…そうだ あのピックを渡さなきゃ…)



『ねぇ 亜紀子 トオルさんと会える?』



『え…今? もうスタンバってるし〜無理じゃないかな どうして?』



バックの中のギターピックをとりだし亜紀子に示した



『トオルさんから預かってたの これがないと演奏できないでしょう?』



亜紀子は困惑した表情の私を見てふっと笑った



『エミったら〜(笑)トオルくんはギタリストよ ピックなんて何個も持ってるわよ〜』



『…で、でもね これで曲を弾くから必ず持ってきてって言われたのよ〜』



慌てる私にもう一度亜紀子は笑った



『も〜わかってないなぁ〜(笑) それはね トオルくんの作戦よ〜』



『えっ…作戦?』



私の考える表情を見て亜紀子はじれったそうに苦笑いをした



『あ〜もうっ〜エミったら! とにかく中に早く入ろうよ 始まっちゃうよ〜 』







ドアを開くと場内は薄暗く観客のざわめきだけが聞えた


丁度バンドのチェンジのスタンバイも終えたところのようだった
ステージに立つメンバーを一人一人を目で追った
ステージ左側でベースを爪弾きチューニング中のトオルが見えた


『あっ トオルくん いたいた〜♪ 』
『エミー 今ならトオルくんにピック渡せるよ 急ごう〜』



亜紀子が私の手を引っ張りちょっとすみません〜と立つ人をかき分けて前へすすんで行く
そういえばシンジはどうしたのだろう?一緒に亜紀子と来てる筈なのだか…


『あっ ねぇ〜亜紀子 シンジさんは?』


『え〜っと ほらっ あそこ〜』亜紀子が指を指す


ステージのまん前からシンジが背伸びをして大きく手をふっていた


『ねっ〜亜紀子 もしかして一番前?』


『そーよ〜 エミのために一番の特等席を確保しておいたんだからね』


《…まったく いつもおせっかいな亜紀子とシンジね…(苦笑)》




ステージが目の前に迫った時…
場内の照明がさらに暗くなりステージがライトアップされた



『あ〜もうはじまっちゃう〜』亜紀子が焦った声を出した



一番前の席に辿り着きステージを見上げたと同時に


ドラムの渇いた音が鳴り響き演奏が始まった


ステージに立つトオルが私に気付き笑みを浮かべ
さりげなく片手をあげた


私は手に持つピックをトオルに見えるように掲げた
ステージまで距離はほんの2〜3mであろう…



トオルはずっと視線を送っていた
(この曲が終ったらピックをもらうからステージサイドにきてね エミさん)


そう…伝えているかのように感じた


亜紀子とシンジは演奏を聴きながら時折
私とトオルの視線の先を交互に追っていた






拍手が鳴り響く中 私はステージに近寄った 
その様子にステージ上のトオルも同じように歩み寄った


ピックを差し出す私の手をトオルは軽く握った



『ありがとう…最後の曲は【BLUE MOONの瞳】だからね』



ほんの一瞬 数秒のことだった



そんなふたりのやりとり見ていたのは…



亜紀子とシンジ…だけではなかった