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【〜再会〜】
『エミさん…』
『エミ〜』
駅のコンコースを歩く私の肩を叩き呼び止める声 エミさんからエミと呼ぶ声のトーンに聞き覚えがあった
『えっ…?』
立ち止まり振り向き驚いた そこには意外な人物が立っていた
『えっ〜!! ミ…ミサオ(操)さん…どうして?』
目を丸くする私に年中日焼け顔のミサオが白い歯をみせて笑っていた
『ひさしぶりね〜エミ〜♪ さっきの電車で同じ車両にいたのよ』 『ずっと視線送ってたのに気付いてくれないんだもん(苦笑)だから追って来ちゃった〜』
―驚いた
もう会うことはない…ううん 会えないだろう そう思っていた人だった 目の前のミサオの笑顔が夢じゃないかと自分の手の甲を抓って確かめた (イタッ)やっぱ夢じゃないんだ
『びっくりしちゃった〜!でも ミサオさん…どうしてここに? ロスから帰国したの?』
『う、うん ちょっと訳あってね しばし里帰り中〜』
コンコースの中 立ち話をする私達の両側を人が行き交う 避けて通る人の接触からミサオがかばうように私の手を引いた
『ねっ エミ急いでる?立ち話もなんだからどこかでお茶しない?』
トオルのライブは4時からだった。
腕時計を見た 早めに家を出て書店に寄るつもりだったから時間は少し余裕はある 迷うことなく返事をした
『えぇ 少しなら大丈夫です じゃあ改札の外へでましょうか?』
改札を出て駅前の通りのセルフスタイルのコーヒーショップに足を運んだ ここはルナと待ち合わせに2度ばかり入ったことがあった いつも座る窓際のカウンター席にミサオと並んで座った
『ねぇ エミ〜 今 恋してる?』
アイスティーにガムシロップを注ぎながらミサオが訊く
『えっ いきなりそんな質問ですか〜』
ミサオは返答に迷う私の表情に笑った
『なるほどね エミ〜(笑) ハイ してますって顔に書いてる』
鋭い指摘をされて頬に両手を当て私は照れ笑いをした
『あはっ エミは相変わらずわかりやすい子だ〜(笑)変わってないねあの頃と…』
『わかりやすいって…』 (その台詞…そういえばルナにも言われたことがあった…(苦笑))
『エミが幸せそうでよかった…』 『あ〜あ いいな〜私なんて随分 恋とはご無沙汰よ〜』
『ホントですか〜?向こうで恋人できたって風の噂で聞きましたけど?』
『ううん〜その噂の風はきっと風向きが間違ってるよ〜(笑)』 『あ〜でもね 恋人にはならなかったけど淡い恋はあったかもね〜』
ミサオは自分の言葉に頷きながら アイスティーの氷を揺らし微笑んだ その笑みに私は恋の話題を逸らした
『ミサオさん 向こうでの生活は慣れましたか?』
『う〜ん そうね英語不得意だったから最初は困ったけど 2年も住んでるおかげでいまではすっかりバイリンガルよ〜(笑)』
ミサオは、ダンスの講師兼フリーダンサーだった 2年前 ロスの有名舞踊家に師事する為渡米したのだった ロスではダンス留学生や日系人相手のダンス教室で指導をしているという
ミサオとの出会いは社会人一年生の春だった
友人が通うジャズダンス教室主催の発表会に足を運んだ時 “私の講師なの”と紹介されたのがミサオだった
“はじめまして”と挨拶を交わし私をまっすぐ見つめる ミサオの輝く黒い瞳に私は胸が高鳴るのを感じた
昔話をしながら時に眩しく…時に優しく見つめる ミサオの黒い瞳はあの日と変わらずに輝いていた
その懐かしい瞳の中に 時々引き込まれそうになる自分がいた
その瞳に 恋焦がれたあの頃の想いがよみがえるように
そう…最初の出会いの あの日から私はこの瞳を追い続けて
そして… ほどなくこの瞳に落とされたのだった
『ねっ エミ 時間大丈夫?予定あるんじゃないの?』
ハッとして時計を見た 3時を少し廻っていた
『あ〜大変 もうこんな時間 行かなきゃ〜』
焦って席を立とうとする私をミサオが引き止めた
『あっ エミ ちょっと待って』
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