INDEX
【〜猜疑心〜】
指先で摘んだギターピックに・・・哀しく呟いた
(・・・エミィ どうしてなの・・・)
シャワーが止まる音に
ルナは慌ててギターピックをバックの中にしまった
濡れた髪をタオルでふき取りながらエミが
ベットに座るルナに声を掛けた
『ねぇ ルナもシャワーしてきたら?』
『う、うん そうね してくる・・』
(・・・ルナ?)
気のせいだろうか…
バスルームに向かうルナの表情がなぜか沈んで見えた
シャワーを浴びるルナの頭は猜疑心でいっぱいだった
あの夜のマユの報告が本当なら?
なぜエミはトオルと会ってたんだろう?
あのギターピックはなんの意味だろう?
・・・エミに聞けばいいじゃない
・・・ううん 聞かない 問い詰めたりしない
・・・エミを信じてる それでいいじゃない
・・・何も見なかった 何も聞かなかった
・・・それでいいじゃない
自問自答を繰り返し全開にしたシャワーを
浴びながらルナは首を振った
《その聞かないことが・・・後にふたりの愛に亀裂が入ることになろうとは・・・》
―その日の夕方
終業ベルが鳴り響いたと同時に亜紀子がデスクに飛んできた
『ねっ エミ〜 どうしてたの〜?
課長が無断欠勤だっていってたから 心配してたのよ〜』
『ごめんね 亜紀子 朝 会社へ遅刻の連絡遅れちゃったから・・・』
『なにかあったの エミ〜?』
『ううん ちょっと二日酔い(苦笑)朝 起きられなかったの・・』
『え〜二日酔い? エミ 二日酔いするほどお酒飲まないじゃない〜』
『ねっ 朝、誰も起こしてくれなかったの?』
ロッカールームへの廊下を歩きながら亜紀子の質問攻めにあった
納得のいく返答をしないと質問はずっと繰り返されそうだった
着替えを済ませ亜紀子に声をかけた
『ねっ 亜紀子 駅前のcafeに行こうか』
『あ〜 やっぱなにか 深刻な相談ね エミ〜♪』
『いいわ まかせて悩み事 聞いてあげましょう〜』
夕暮れ時のカフェテラス
コーヒーの香りがふたつのカップから漂う
向かいの席の亜紀子は…期待一杯で言葉を待っていた
『あのね…亜紀子 別に 悩み事じゃないの 遅刻の理由はね…』
ルナのことは亜紀子にカムアウトしていないから言えない
昨夜 久しぶりの友人との再会で飲める友人のペースに
つられてお酒を飲みすぎて…酔い寝てしまったと亜紀子には説明した。
『そうだったんだ〜、ねっ その友人ってもしかして男?』
『えっ 違うわよ〜女友達よ〜』
『ほんとに? ねっエミ もしかして 恋してるんじゃないの〜 』
『まさか・・・してないわよ〜』
『エミ 最近なんか憂いがあるからさ
恋してるのかなってね 思ったの』
首を振る私の顔を
亜紀子は斜めから覗き込み意味深に笑った
『あっ・・・そうだ課長がさ・・・』
『そうそう あゆみがね・・・』
亜紀子のおしゃべりは相変わらず続いていた
私は軽い眩暈と頭痛がしていた
睡眠もとらずに夜通しルナとずっと抱き合っていたせいだろう
昨夜の余韻がまだ身体のあちこちに残っていた
(…ルナ・・・なぜ・・・どうしたの)
頭の中を巡るのは帰り際のルナの表情だった
『ねぇ…ルナどうしたの?なんか急に元気なくなったみたい』
『そんなことないよ ちょっと眠いだけ…
寝かせてくれなかった エミィのせいだよ(苦笑)』
笑みを浮べ改札に向かうルナの黒い瞳が哀しく映った
《ルナがトオルのギターピックを見たことなど
私はまだ・・・この時点では知るよしもなかった》
亜紀子のおしゃべりの声を聞きながら
ぼんやりとテラスの外の夕暮れの街を眺めた
『ねぇねぇ〜 エミ トオルくんとはどうなの あれから会った?』
亜紀子の声にハッと我に返った
『えっ ううん 会ってないわよ・・・』
そう答えたと同時に
携帯の呼び出しコール音が鳴った
液晶画面にはトオルの名が表示されていた…
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