――昼休み
亜紀子と、社員食堂で昼食をとっていた
「はい エミ〜、これ お土産♪」
小さな袋をにこやかに・・・テーブルに差し出す亜紀子 袋から出てきたのは、木彫りの可愛い人形のストラップだった
「かわいい♪ありがと〜。 ねっ・・亜紀子 旅行は、シンジくんと一緒にいったんでしょう?」
「うん、そう・・・ 実はね、シンジの実家にいってきたの・・・」
「実家って、もしかして・・・ご両親にご挨拶に?」
亜紀子が、珍しく照れ顔で頷く
「今週は、シンジが私んちにくるの」
「・・・ということは・・・そうなんだ 亜紀子もついにお嫁にいっちゃうだね・・・。おめでとう〜」
「やだぁ・・・おめでとうだなんて〜、まだ早いわよ〜エミー(笑)」
食器のトレイを、返却口に運びながら亜紀子は声のトーンを落す
「ねっ エミ・・・、まだ会社の人たちには内緒にしてね」
「わかってる 亜紀子みたいに私、お喋りじゃないもん〜(笑)」
そう言う私の背中を亜紀子は笑いながら小突いた
ふと、一昨日のあゆみの顔が浮んだ あゆみは、愛のない結婚に向かい、亜紀子は愛のある結婚に向かっている
結婚する意味って・・・なんだろう 適齢期を迎えた女性が安定する場所を求めて辿る形 愛していても いなくても 結婚という形に収まればいい そういうことなんだろうか・・・わからない
ルナと私には、できない結婚という形 形なんてどうでもいい 愛し合って一緒にいれれば・・・ ただ、それだけで十分・・・
それぞれの愛の形があるんだ だから、いいんじゃない・・・心の中で哀しく笑う私がいた
「そうだ〜、 エミー トオルくんから連絡あった?」
洗面所で、化粧直しする鏡に映る私に亜紀子が問う
「ううん、こないよ 連絡ってなに?」
「あら、おかしいわね エミには一番に連絡してると思ったのに・・・ あのね〜、トオルくんのバンド ライブするらしいよ♪見に来てほしいって・・」
「あっ、それとエミには直々に話したいこともあるらしいよ〜」
「え〜、なんだろう・・・?」
トオルとは、あの強引な抱擁から逃げた夜から会っていない メールは、度々きたけど他愛もない内容だった・・・ そういえば、そのときにライブするって書いてたかもね・・・忘れてた(苦笑)
トオルの話題で、マユのことを思い出した
・・・お互い真剣な付き合いじゃないから、別れたんだ
トオルの口から出た言葉
ルナの部屋に訪ねてきたマユの顔を思い浮かべた あの日は、結局ルナにはマユのことは何も訊かずにいた
訊きたくなかった・・・ あの日は、ルナで心も身体もいっぱいだった
・・・・ルナも、マユとは軽い気持でお互い付き合っていたのだろうか?
鏡に映る自分に問いかけた・・・心の中で首を振った 《ううん、ルナはそんなことするひとじゃない・・・》
亜紀子が、私の腕をひっぱった
「エミ、早くデスク戻らなきゃ〜、また課長にお目玉くらっちゃうよ〜」
「うん〜」
亜紀子が、髪をかきあげながら急いで鏡の前から離れた
私は、ブラウスの襟をずらし首筋に残る痕を確認した
《・・・うん、見えない・・わかんないね・・》
「じゃあね〜、エミ 又、明日ね〜♪」
改札を出て、路線が違う亜紀子が手を振りながら階段を下りていく
私は、頼まれ物の買い物をする為に・・・ 駅と繋がるショッピングセンターに向かった
エレベーターを待つ私の横に立つ人の視線を感じた やがて、その視線の主が声を掛けた
「エミさん・・・」
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