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【“冷たい優しさ”】
《今・・・ルナが、マユと玄関の外で話してるんだ》
慌てて着替えを済ませ・・・
髪を梳かし、スッピンの顔にルージュだけ塗った
何をそんなに慌ててるのか自分でもわからなかった
ルナと初めての夜を過し・・・甘美な夢の中で眠っていた
まさか、こんな現実の悪夢で起こされることになるとは
この悪夢から逃れたい・・・目を覚ますためには
この部屋から出て行かなきゃ・・・そう思った
いま、起こってる場面を直視したくなかった
悲しみ・・、裏切り、憤り・・、猜疑心・・、不信感・・
いろんな感情が入り混じり ただ、息苦しかった
バックを持ち、重いドアを開こうとすると
ドアのすぐ外に立つルナが・・・気づいた
『エミィ、何してるの?』
思い切ってドアを開き・・・玄関の外に出た
『ルナ ごめん 私、帰るね・・・・』
ルナの前に、緊迫した表情でマユが立っていた
私とルナを交互に見る マユと一瞬目が合った
マユは小柄で、可愛い感じの女性だった・・・
『ちょっと待って・・・、エミィ』
ルナのひき止める腕を払い、エレベーターを待たず
非常階段を降り・・・マンションの外に出た
外の空気を感じたとき やっと呼吸ができた気がした
ルナが、追いかけてこないことはわかっていた
だから、ふりかえらなかった・・・
マユがいなかったら、力ずくでも引き止めてただろう
一瞬、ひきとめた ルナの瞳の中に言葉を感じた
(今は、ひとりにしたほうがいいね・・)
マユを無理に追い返したり・・・私に、適当な言い訳を
ルナはしない人だとわかっていた・・・。
追いかけて、ひきとめないことが・・・
ルナの“冷たい優しさ”だということもわかっていた
《ルナ・・・信じてるからね・・・》
昨夜、二人で寄ったコンビ二の前を通り駅に着いた
日曜の朝の電車は空いていた。
BOXの窓際に1人で座った
コンパクトを出し、化粧っ気のない顔を映してみた
(わたしったら・・・素顔で飛び出してくるなんて・・・)
慌てて塗ったルージュのラインが正確じゃなく笑えた
こんな顔をルナとマユにみられちゃったなんて 恥かしい
せめてマユには、綺麗にした私を見て欲しかったな・・・(苦笑)
小さな鏡に映る自分に、なぜか涙が溢れた・・・。
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