INDEX
【“BOOK COVER”】
ルナと待ち合わせに選んだ場所は、はじめて出逢ったカフェ
カウンター席が空いていた 見廻せばテーブル席も空いてる
すこし迷って私はカウンター席にむかい 座った
ガラス越しの外の交差点の往来を眺めながら
朝の電話の、ルナの声を思い出していた
『エミさん おはよう〜♪朝早くごめんなさいね
今日予定ある?お話したいんだけど・・・会える?』
ルナと二人きりでやっと会える・・・
約束の時間まであと少し・・・時計を見たとき声がした
『お待たせ エミさん』
振り向くとルナが笑顔で立ってた
『カウンター席でいいの?あっちに移動しない?』
ルナは 後ろのテーブル席を目で示した
頷いて席を立つ私のカップをルナが持ってくれた
『金曜の夜はごめんね なんだか店からエミさんを追い出しちゃった
みたいで・・・。 私、ずっと気になってたの・・・』
スマートにタバコを吸うルナの仕草をみつめた
『いいえ、私こそ店の中まで押しかけちゃって・・・すみませんでした』
訊きたい事は、たくさんあった・・・。
でも今は、ルナの話を優先しよう・・・そう思った。
『BARに迎えに来た彼 エミさんのお友達なの?』
いきなりルナから訊いてくるとは・・・
(やはりトオルとの繋がりを気にしてるのかしら)
『あの日、初めて会ったんです ともだちの彼の友達です・・・。』
『そう、じゃあ〜お友達にはなったのね?』
ルナは何を言いたいのだろう・・・
『あの〜、ルナさんは彼を知ってるんですか?』
『・・・』
少し間をおいてルナが答えた
『ええ、知ってるわよ 訊いたでしょ?』
『彼からは、以前バンドでキーボードしてた女性のお友達だと・・・』
ルナは燻らす煙りの先を目で追っていた
『お友達・・・。ええ、そうよ・・・』
そう答える ルナの瞳が一瞬曇った
『そうですか〜、世の中狭いですね(苦笑)』
これ以上はもう訊かない 訊きたくない なぜかそう思った
『あ、そうだ・・・』
ルナは灰皿にタバコを押し付けて火を消し
思い出したようにバックから文庫本を出した。
『エミさん読んだ?読んでなければ・・・どうぞ(笑)』
テーブルに差し出した文庫本 あの作家の本だった。
そのタイトルは、あの日ルナと同時に手をのばした文庫本だった。
『いいんですか? ルナさん』
『ええ、返却は無期限 いつでもどうぞ・・(笑)』
私も本を見て思い出した。
『そうだ ルナさん、私も渡したいものあるんです』
『あの〜 これ・・・』
薄っぺらいペーパーバックをルナに差し出す
『えっ、なに?』
ルナは、カップをずらして中を覗いた
『あっこれって もしかして“BOOK COVER”ね?』
『私、コーヒーこぼしちゃって 汚しちゃったから』
『あれは、書店で付けてくれる紙のカバーよ だから気にしなくても
いいのに〜(苦笑)・・・・綺麗ね、これって 和紙ね・・・』
ルナに逢いたいと彷徨っていた 先週の日曜
ふらりと寄った和雑貨の店で見つけた和紙だった・・・。
『もしかして手作り?』
『手作りといっても・・・只 和紙を張り合わせただけです(苦笑)』
『ありがとう 大切に使うね・・・』
潤んだ黒い瞳で見つめるルナ
ルナの中に映る私は 無言で好きを伝えていた・・・
← →
|
|
|
|