TYPRuna&Emi(ルナ&エミpartV


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 【A good old voice】


                            


最終のひとつまえの電車がホームに滑り込んできた


私はすぐ乗り込まず
発車ぎりぎりまでホームで迷っていた


ジリリ〜と響くベルとともに
あきらめて…飛び乗った


ホントはこの電車をやり過ごそうと思った…



最終電車まで待つつもりだった


それは 心のどこかで待っていたから…


もしかして…
ルナが追いかけてくるかもしれない

もしかして…
あの時みたいにメールで
呼び戻してくれるかもって



やっぱりそんなわけなかったね
ルナはいつもクール ううん…今夜は特に冷たい(苦笑)



もう涙もとまっていた



乗客もまばらな車内

 
私はわざとルナのマンションが
見えない窓側に座った



電車が揺れる度
何度も無意識に携帯電話を開いた



そのたびに小さな溜息がこぼれる



”私ったらそんなに気になるなら
自分からかければいいじゃない…”


”ううん かけない だって私は悪くないもん”


強気の私と意地っ張りの私が押し問答していた



けどやっぱり…マユとルナのことはショックだった



『マユを一度だけ…抱いたわ』



しかも愛していなかったなんて
なんだかとても悲しい…



『もう終ったことよ 今更どうしろっていうの?』



それはルナの声にも重なった



たしかに終ったこと わたしと出逢う前のこと
今更 ルナを責めてもしかたないこと



なのに私は、なにを勝手に傷ついているんだろう



仕方なかったのよと話すルナの声に耳を塞ぎ
ただ、やりきれなく悲しくて衝動的に部屋を飛び出してきた



もっと冷静になって最後までルナの話を訊けばよかった



・・・後悔していた 
・・・反省していた



でも今夜はもう戻れない






なんだかこのまま帰りたくないな…
だって今夜はルナのところに泊まるつもりで出てきたから



私はふっと思い出した


…あっそうだ…ミチ姉とこに行こう〜


従姉のミチコは一人暮らしだった
今までも嫌なことあったらミチコのところへ相談しにいったり
何度か泊めてもらったりしていた
私にとっては本当の姉のような存在だった


携帯を開きミチコに発信しようっと思ったとき
着信画面に変わった



画面に見覚えのない11桁の番号が点滅していた


…ん…この番号は?


誰 間違い電話かしら?


躊躇いながら…通話ボタンを押した



『…もしもし』


『あっ もしもし エミさんですよね?』


やけに明るい声が響いた


『はい…』


『エミ〜♪ わたしわかるよね?』


『…え…あ、あの』


『やだな〜エミ〜 忘れちゃったの? 私よ ミ・サ・オ!』


そうだった…ちょっとハスキーなその声はミサオだった


『あっ ミサオさん〜♪』


ハッと声のトーンが上がった口元を慌てて押さえた


私は自分が電車の中にいることを一瞬忘れていた


ふと周りを見回した


幸い車内の乗客もまばらで眠っている人
同じく携帯を眺めてる人
私の声にふり向き気にする人は誰もいなかった


だが電車の中で会話はタブーだ


『あの…ミサオさん いま私 電車の中なんです 
もうすぐ駅に着きますから かけなおしていいですか?』




                                                      

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