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【emotional heart】
―そうなんだ ルナはマユさんに会ったんだ
『トオルがLOVESONGを捧げたい女性ってエミさんだったんですね…』
ライブが跳ねたあと会場で声をかけてきた 鋭いマユの瞳が浮かんだ
ワイングラスを口に運ぶルナの瞳は哀しく光った
『あのギターピックは彼(トオル)のだったんだね…』
(…あのギターピック?)
あぁ そうか… ステージに駆け寄りギターピックをトオルに渡したところ 一部始終を見ていたマユがルナに話したんだ “あのギターピック”の意味を…そう解釈した
私は知らなかった… ルナの部屋で過した夜 落ちたバックから転がったギターピック それをルナが手にして見たことを…
『そっか 全部マユさんが報告したんだ…』
表情を変えずスマートに煙草を吸うルナの指先を見つめた
『エミィ LOVESONGで心が揺れた?』
『ううん 揺れてなんかいないわ…。 ねぇ マユさんはルナに何を話したの?』
『エミィが私に言えなかったことよ…』
2本目の煙草をルナは灰皿でもみ消した
…ふと思った マユはいったいなんのつもりで ルナを呼び出してまでそんなことを話すのだろう
嫉妬? それとも…?
―そうだ…今夜こそルナに訊かなきゃ ルナとマユさんの関係
『ねぇ ルナ訊いてもいい?マユさんはルナの恋人だったの?』
メンソールの煙草をまたケースから一本取り出し 一呼吸おいてルナは答えた
『恋人じゃなかったよ…』
『そうなんだ…』
『けど…一度だけ…』
『…一度だけ?』
『マユを抱いたわ…』
躊躇なくあっさり答えるルナの言葉に私は耳を疑った
『抱いた…って…』
突然のルナの衝撃的な告白に手にもったワイングラスが震えた
『ね…ねぇ…ルナはマユさんを愛してたの?』
『ううん…』
ルナは首を振った
『…ルナは愛していなくても抱けるの?』
『そうね…そんなこともあったわ…』
ショックだった
涙が一気に溢れ出した
『なんだか…悲しいわ』
『…でもね…あのときは仕方なかったのよ』
『言い訳なんか訊きたくないわ!』
『そう…じゃあ 言わないわ』
ルナは煙草を置きグラスのワインを口にした そのクールな瞳はワインの赤に染まって見えた
『すごくショックよ ルナ…』 『私が誰かにほんの少し心揺れたくらいどうだっていうの!』 『ルナがそんなことできる人だったなんて…!』 『マユさん きっと今もルナの事好きなのよ なのに…』
やり場のない悲しみが攻撃的な言葉に代わった それをルナにいくつもいくつもぶつけた
『・……』
『言いたいことはそれだけ? もう終ったことじゃない…今更どうしろっていうの?』
ルナは目を閉じた
開けた窓からの涼しい夜風が二人の髪を靡かせた…
こんな重い空気の中 今夜はこの部屋で過したくなかった なによりも心も身体も今は、ルナを受入れられない
『…帰るわ ルナ…』
私は、ルナの部屋を飛び出した
ルナは追ってはこない 引き止めもしない
わかっていた…
あの時だってそうだったから
だから…ふりかえらなかった
駅へ急ぐ自分の足音だけが 虚しく夜道に響いていた…
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