/Runa&Emi(ルナ&エミ)partV


 INDEX

                    【〜Only you〜最後の夜〜D】

 

                           

大きなカップアイスとふたつのスプーン


『はい どうぞ エミさん(笑)』

ルナがふざけてスプーンにのせたアイスを私の口元に運ぶ
そのアイスの甘い冷たさは胸までジーンと凍みた


『そういえば、いつかエミィに貸し出した文庫本 読んだ?』

「うん 返却期日は無期限のあの本ね(苦笑)」

『じゃあ エミィに質問(笑)その本の147頁の最後の行に書かれていた台詞は?』

「147ページ?台詞?え〜そんなの憶えてないわよ」

『だめだな〜あの台詞が重要なんじゃない
 ちゃんとストーリー理解できてる?(微笑)』

「勿論よ 大好きな作品だもん 147ページね 確認しておくわ」



窓に映る pale moonを眺めた…
こんな他愛ない時間をふたりで過ごせるのもあと数時間


壁時計の針を見詰めるルナの黒い瞳が潤んだ


『もうこんな時間だね そろそろ帰らなきゃだね エミィ』

「…帰りたくない ルナ」

『だめでしょ 明日 仕事でしょう』

「…寝坊しましたって堂々と遅刻していくわ…」

『ダメよ エミィ(苦笑)私は遅刻できないんだからね
煙草一本吸ったら 駅まで送っていくわ…』


『来週の週末は仕事だし もうNYにいくまではエミィに会う日がないね』


「うん…わかってる わがまま言わない ルナ…私は平気だからね」


『エミィ…、そんな顔しないで なんだか一生の別れみたいじゃない』


「うん そうだね…」


私は、ぎこちなく微笑んだ…




BGMのチャンネルを切り替え煙草を指に挟みライターを弾く

そんなスマートに動くルナの指先を見るのが好きだった


「ねえ ルナ そのライター欲しいな…」


『ん…ライターを…? エミィは煙草吸わないでしょう?』


「うん 吸わない だけど…欲しいの…」


『吸わないけど?…(笑)意味 わかんないけど…まあいいわ』


スリムなブルーのライターを どうぞ…とルナは私の掌にのせた


ルナの真似をしてぎこちなくライターを弾いてみた
小さな青い炎が縦に長くオレンジ色に伸びて揺らぐ…


「寂しいとき こうしてライター点けて…火を見詰めるわ…」


『エミィったら…ライターの火は見詰める為につけるんじゃないのよ(笑)』



私は、壊れそうな胸を押さえて
もう一度ライターを弾いて
揺らぐオレンジの炎を見詰めた


「ねぇ…ルナ 私の事 忘れないでね…」


『…』



『忘れるわけないじゃない…(微笑)』


ルナの寂しい横顔を青い月が照らした…


そして
この夜がルナと過ごした最後の夜だった








二週間後…


快晴の空が清々しい 6月の最後の土曜日

この日はルナがニューヨークに旅経つ日
そして親友 亜紀子の結婚式だった

私は亜紀子の結婚式に向かった…
見送りにはこないでいいからと…ルナに何度も釘をさされた



…ルナ
ちゃんと友人代表でスピーチして亜紀子を笑顔で祝福するからね

外に出たら空を見上げるね…
飛行機雲がもし見えたら いってらっしゃいって心のなか 手を振って見送るね





新婦の控え室を覗いた

「あっ エミ〜」

鏡に映った 私に気づいた亜紀子が
ウエディングドレスのまま 駆け寄ってくる


『亜紀子 キレイね』

「ありがとう〜♪」

頬を両手で包みはにかむ亜紀子は幸せに満ち溢れていた


「私のブーケ エミがキャッチしてね〜」

『あ、うん…』

ちょっと躊躇いがちな返事の私


亜紀子が…私の腕をとり耳打ちした

「そうそう トオルくんも来てるからね エミ〜♪」

えっ…トオルさんが? 一瞬 何故 亜紀子の結婚式にと思ったが
新郎シンジの顔が浮かび納得した
トオルは新郎の友人 当然 招待されてておかしくないはずだった

「二次会の席ふたりは隣同士だからね〜」

亜紀子がにっこり笑った

『もう 亜紀子ったら…(苦笑)あのね 私はトオルさんとは…』

…言いかけたとき

式場のスタッフが
そろそろ ご準備よろしいですかと声を掛けにきた