Runa&Emi(ルナ&エミ)partV


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                   【〜Only you〜pale moonの夜〜C】

 

                           

「連れて行って…ルナ」


分かりきってる答えを求めて私はルナの胸に顔を埋めた


私の母は数年前から難病だとされる病に冒されていた
無理さえしなければ日常生活は健康な人となんら変わりない
だが 母と二人暮らしの今の環境では、私が家を出るわけにはいかなかった

そんな事情はルナに一緒に住もうと言われたあの日に何もかも話していた


『連れて行きたいよ…。エミィに傍にいて欲しい…。でもね 今はね
私 以上に傍にいてほしい ううん いてあげなきゃいけないのはお母さんなんだよ…』


どうにもならない無念の涙がルナの胸の上を流れ落ちる…


『……』


ルナは私の背中を抱きしめた


『エミィ…戻ってくるから』


「いつ…?」


『それは…わからない』


ルナの黒い瞳のなかに涙で歪んだ私が映っていた


「リツコさんは 幸せね…」


『どうして?』


「だって…ルナが傍にいるんだもの」


『……』


「リツコさん ルナを愛してるのよ 私は最初から…気づいてた」 


『エミィ…さっきも言ったけどね…』


「うん…、分かってる ごめんね…もう言わないわ…」


ルナの気持ちは痛いほど分かっていた
夢を捨てきれないこと
大の親友である傷心のリツコさんをほっておけないこと
私がルナならばきっと同じ選択をしただろう


覚悟をしていた…。


それはルナとの別れのときを…。



「ルナ…。私 ルナと出会えてほんとに幸せだった
過ごせた時間は短かかったけど こんなにね 愛してると思えたのはルナがはじめてだった…」


『エミィったら…そんな過去形で言わないで
NYにいったって…メールだってできるし 電話でだって話せるじゃない それに…時々日本にも帰ってくるし…』


私は首を振った


「ううん…遠く離れて 顔を合わせない時間が長くなれば 気持ちだって離れていく気がするわ…」


『離れないよ…。 また なんでもマイナスに考える いつものエミィの悪い癖ね(苦笑)』



「こんな エミはもういらないでしょ…」


『エミィったら バカね…」


ルナの寂しげに笑う瞳が哀しかった


「……」






やるせないとは
こんな気持ちなのだろうか…


時計の針の音だけが響く部屋
ふたりはただ天井を見詰めていた


今夜は妙に静かな夜だなと思った…。

天井から視線を落とし 暗い部屋のなかを見回せば
ベットサイトの電源オフのままのコンポが目に入った


(そっか今夜は…BGMが流れていないんだ)


ルナはいつも部屋に入ると真っ先にコンポの電源を入れBGMを流した
FMだったりお気に入りのCDをかけたり
それはAORやR&Bだったり古い洋楽だったり
二人の時間をまったりと演出してくれる…ルナの選曲が好きだった


「ルナ 今夜はBGMなしなのね… ねっ、なにかかけてもいい?」


『いいよ 私もちょっと煙草一本吸おうかな…』


ふたり同時にベットを下りた



コンポの電源をオンにしてFMを小さなボリュームで合わせた


そのままベランダに向かいカーテンを少しひいた


「今夜はPele moonだね 綺麗に見えるわ」


蒼く見える今夜の月は立待月だった


私の声にシガレットケースから抜いた煙草を指に挟んだままルナが横に立った


『ホントだね…なんだか今夜は 哀しい青に見えるね…。
ねえ エミィ 憶えてる? あの夜もたしか Pale moon だったこと(微笑)』


「あの夜って?」


『ふふっ、洗面所からコロンを手にして…これは誰のって…私を問い詰めた夜だよ」 


「あ、それは憶えてない だってあの時は月を見る余裕なんかなかったもん(苦笑)」



ベランダに出てみると
夜風がふたりの頬を撫ぜた


「ねぇ ルナ…いつNYに行くの?」


『今月 最後の土曜日…』


「最後の土曜……って」


その日は亜紀子の結婚式だった…。





月を見上げたままの私の頬にルナの手が触れた


『エミィ 友達の結婚式でしょう…
ちょうどよかった エミィに見送られたくなかったから…』


「2週間後ね…。 ねぇ ルナ どうしてそんなに早く行かなきゃいけないの?」


『早速 仕事の依頼が来てるのよ…。だから、予定よりも早く行くことになってしまったの…』


「ルナ…、私…どうしたらいいの」


『エミィ その日は友人代表でスピーチ頼まれてるんでしょう 
ちゃんと友達に祝福の言葉を贈ってあげなきゃ…』


「……」


涙が伝う私の頬にルナが口づけをした


『あっ そうだ エミィ…、アイス食べよう(微笑)』