TYPE Runa&Emi(ルナ&エミ)partV


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                    【〜believe in love〜10〜

 

                           

窓に夕日が射しはじめた頃 リツコの父が病室を訪れた


あれから…
泣き疲れたリツコは、ベットに横になり学生時代の昔話や
ニューヨークの街を語りながら…いつしか眠ってしまっていた


「リツコはここへきてから一番穏やかな顔になった気がします 
ルナさん きっとあなたに会えたからでしょう…」


リツコの寝顔を見詰める父の目にキラリと光るものが見えた…



ふっと思ったのは、会ったことのないリツコの恋人だった


『あの…リッコの彼は病院には?』


「その人が来たのは一度きりですよ…。命には別状はないと言ったら安心した顔で
仕事があるのでと…さっさと帰って行きましたよ」


もう二度と来てくれなくてもいいと呟き…父は溜息をついた
私もその言葉に頷いた…。




「ルナさんがさっき お尋ねの出版社の場所を調べてきました。 ご案内します」



すっかり寝入ってしまってるリツコをふたりで振り返る
このまま起こさずに寝かせておきましょうと
印刷された地図を広げながら父はドアを開けた
 


『あ、すみません お父さん 少し待ってもらえますか…』


ペンと手帳を取り出しメモにメッセージを綴った


そのメモを眠るリツコの枕元においた









日本を発つ前日…


今回の急な休暇を申し出た時
ニューヨークに行くのならと上司が社長に連絡をした


「ちょうどよかったよ ルナ君 私はまだあの話を白紙にはしていなかったからね」


とりあえず出版社を覗いてきてほしいと社長は横文字で書かれた名刺を差し出した
夢への道のりは与えられたチャンスにまず素直に向かってみるのが最大の近道だと
社長は私の肩を叩いた 


こんなことって…まるで筋書きが出来てるようなタイミングだと感じた 


…でも
自分の決心は変わらない
今は、エミと離れたくない


と…思いつつ
貰った名刺を眺めながら 再びのチャンスに心揺れる自分がいた






タクシーの中でリツコの父の携帯を借り出版社に電話を入れると
担当者が取材が伸びて今日は時間が取れないということだった


明日の午後便で日本に帰国すると事情を説明したら 再度 連絡を入れますとの返答だった…。


今回の目的はあくまでリツコの見舞いだったから…
出版社の人に会えなければそれは縁がなかったということだ 別に構わないと思った


やりとりを聞いていたリツコの父が連絡待ちの間に夕飯でも食べにいきましょうと
タクシーをUターンさせた



宿泊する予定のミッドタウンのホテルからほど近い日本料理店


この店はリツコのお気に入りなんですと父が言った


静かな空間に琴の音色が響く

ここが異国の地だとは感じない和の趣が漂う店内
あいにくお座敷しか空いていないというのには何故か納得した


「あの子は愛情に恵まれていない子なんです…特に家族愛には」


運ばれた食前酒に口をつけリツコの父がゆっくりと語りだした


「リツコが小学校3年のとき母親が他界して 私は男手ひとつであの子を育ててきました
リツコが中学の時でした 私には再婚を考えた女性がいたんですが…どうも、お互いに
受け入れられなかったんでしょう…。多感な年頃だったリツコは不登校になったりと
いろんなことがありました。私も結局その女性と上手くいかず別れました 仕事が忙しい私はいつも
リツコには寂しい思いをさせていました。母親の分まで十分な愛情を注いでやることが出来なかった…」


意外だった 母親は早くにいないという話は聞いていたが
リツコが中学の時 不登校生徒だったなんて 今…始めて知った


「高校に入ってルナさんとの出会いがあの子に輝きをくれました

〜お父さん すごく気が合う友達できたの その子とね 将来 一緒の仕事しょうねって
約束したんだ ねえ 私たちにカメラの手ほどきしてよね〜 何度も言ってました(苦笑)」


高校で知り合ったときのリツコはそんな過去があるなど微塵も感じさせなかった
いつも明るくて大きな瞳をクルクルさせてよく笑う まるで向日葵みたいな子だった


頭のなかで記憶を手繰った
同じクラスになり隣に座ったリツコが瞳を輝かせて話しかけてきた日のこと


〜私の父はカメラマンなの その影響で 私も最近 写真をよくとるの  
ファインダー越しに風景を眺めてるとね 違う世界が映るの… 
シャッターを押す瞬間って自分だけに映る世界をストップさせるみたいで なんだか快感よ(笑)
ねえ ルナさんも一緒にファインダーのぞいてみない〜


愛情に恵まれていない そうかもしれないと思った 
今まで、いくつ失恋話を聞いただろう
いつも、恋をしては傷ついて泣いてばかりのリツコだった


食前酒を飲み干した リツコの父が縋るような目をした


「ルナさん お願いがあります…」