「【霧子のタンゴ】って曲を父は子供の頃 なぜか好きでよく口ずさんでたらしいの…
それからね 父が20歳のときに出逢い恋した女性が、偶然にも霧子って名前だったらしいの」
『そうなんですか じゃあ もしかしてその霧子さんは あなたのお母さん?』
霧子は首を振り残念そうに笑った
「母には内緒だと成人式の日に父が教えてくれたの。結ばれない恋だったらしいわ」
『でもお母さんが知ったらちょっとイヤかもしれませんね 昔の恋人の名前を娘につけるなんて…』
霧子は鼻の根に皺を寄せて微笑んだ
「それがね 母はなぜか知ってたの でも全然気にしてないの」
『それは きっと お母さんは、霧子さん以上にお父さんに愛されてる自信があるから だから気にしてないんだと思いますよ』
「そうかしら…今度 母に聞いてみようかな(笑)」
ソファに横ならびに座るふたりは
体を互いの方に向けながら話していた
今度は霧子がリオに聞いた
「ねえ リオさんて役者さんかなにか?」
『えっ まさか 違いますよ どうして そう見えますか?』
「うん リオさん カサノバに負けないくらい
カッコいいなと思ったから…」
『え、まさか カッコいいなんて とても照れます』
霧子の言葉に、単純に有頂天になっている自分に
バカだなきっとお世辞に決まってるだろうと言い聞かせた
「じゃあ モデルさんとか?」
リオは答えるかわりにバックのポケットから名刺を取り出し
霧子に差し出した
名刺を見詰め 一瞬首をかしげた霧子だったが
やがて…どういう店なのかを理解したのかリオを見て頷いた
「なるほど じゃあリオさんはプレイボーイではないのね?(笑)」
『はい、もちろん プレイガールでもないですが…(笑)』
この日から この出逢いから ふたりはまるで
いま観た映画のような 激しい恋に落ちてしまうのだった
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〜beloved〜霧子
■出逢い〜映画館〜(5)